Eva(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)

捜査に対する矜持

警部補

 私が捜査係長をしていたときの刑事課は、まだ刑事防犯課といって、今の刑事課と生活安全課がひとつになっていた時代でした。

 その刑事防犯課で勤務していたとき、執務時間も過ぎて、そろそろ帰ろうかと思っていると、防犯係長が「おう。傷害事件や。聞いたってぇな。」と小学校低学年と思われる男の子と祖母を私のもとに連れてきました。

 防犯係長は、私とともに警部補に昇任して、異動してきたのですが、常々、「自信があるのは取調べや。」と豪語もしていましたし、署長との集団面談でも、そう言っており、私は口にこそしなかったものの、「信用出来ひんな。」と思っていました。

 祖母たちから相談室で話しを聞くと「男の子が母親の内縁の夫に暴力を受けている。」とのことであり、居住地の自治体担当者に連絡を入れてから、児童相談所に身柄付きで通告しました。男の子は、病院で受診したところ、肋骨を骨折しており、入院措置となりました。

 確かに「傷害事件」であることには間違いありませんが、心の中で思っていたことが、まさしく具現化しており、まず、やるべきことである「被害者保護」という観点が抜け落ちてしまっており、防犯警察として矜持はどこにあるのだろうと思うわずにはいられませんでした。

 保安警察や少年警察のおける事件化というのは「手段」のひとつであって「目的」ではありません。ましてや、捜査員の「取調べ」というのはもっと注意深く、気を付けて行うものです。

 刑事警察においては、カウンターパートが被害者や遺族ですから、被害者のために何をしなければならないのかという「気遣い」も必要であり、誰にも分らない気遣いでもあります。刑事警察だけでなく、保安警察や交通警察であっても被害者に気遣いが出来ない「取調官」は信用できませんし、ましてや「取調べに自信がある。」という「取調官」には被疑者も心から供述をすることなどないと思います。

 また、当直長として、署で勤務していたとき、初動班として勤務していた刑事課員が「当直だったら被害届くらいとれよ。」といきり立っている場面に遭遇したことがあります。私は一般当直員を制して、私自身が手配を関係先に行ってから、2時間くらいで被害届と被害者調書を取り、証拠品の書類をまとめて、当直員に刑事課に持っていってもらいました。

 いきり立っていた捜査員は、あとから刑事課長にこっぴどく叱られたみたいですが、被害者に対する気遣い同様に、私たちはどの部署にいようと、どのような勤務をしてようと警察職員であることには変わりはありませんし、刑事であれ、他の部署であれ、専務員としての「矜持」は忘れてはならないと思います。

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