棺桶に片足を突っ込むくらい捜査をしているといろいろな経験をするのですが、一番嫌なのは取調官に代わって取調べを命ぜられることだと思います。贈収賄事件のことは、先日記載しましたが、暴力団員による殺人未遂事件でも同様のことがありました。
当時、巡査部長で、ある組長が他の団体に鞍替えするかもしれないということで命を狙われており、二人組の犯人から車を運転していた組長がけん銃で襲撃を受けたものの、車のリアガラスが割れただけで組長は無事だったという事件でした。
被疑者を殺人未遂事件で検挙して、けん銃を発砲した被疑者の取調べの付きをしていたのですが、被疑者は殺人の故意については、否認に徹しており、その後、取調官に不幸があったことから、班長から「代わりに取調べろ。」と下命されました。
付きとして被疑者の態度なりも見て来ましたが、何を言っても自供することはありませんでしたので、被疑者の自尊心を中心に取り調べたところ、けん銃の精度を試すために高速道路で走行中に標識に向かってけん銃を試射し、標識には穴が開いたことを得意げに話しましたので、そのことを供述調書にしました。
この自供が決め手となって、被疑者は殺人未遂で有罪となりましたが、不幸事で帰郷していた取調官の留守中に自供を得たこととなり、苦い思い出でもありました。
取調官だけではないのですが、捜査の指揮を行っていてもジレンマがあります。
ある贈収賄事件があって、捜査第二課の課長補佐時代に暴力団を背景とした人物とともに公共工事を牛耳っていた人物がいて、贈収賄事件に先立って、入札価格を漏洩していた議員や自治体の部長を競売入札妨害で逮捕し、その関係者としてその人物の取調べを命じました。
関係者からはいろいろな自供を得て、背景も明らかとなりましたが、そのことは、関係者がその業界でこれからも仕事をしていくことは困難であり、かつ、一緒に活動していた暴力団を背景としている人物からはいろいろと難癖をつけられるであろうことは自明の理でもありました。
競売入札妨害から贈収賄事件の端緒をつかみ、収賄被疑者から自供を得て、贈収賄事件の着手をしようとした最中に、捜査第二課から総務課へと異動となったのですが、異動後、先述した関係者の取調官から、関係者が自死したことを聞かされ、その遺書には私の名前も記載されていました。



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